ミヨーのレクチャー・コンサートを聴いた          Darius Milhaud (1892 ~1974)

恵比寿の日仏会館でたまにやる、作曲家のおさらい的レクチャー・コンサートはその作曲家の研究や演奏の先達が行うこともあり、よく行くイベント。今回は「ダリウス・ミヨーとその音楽の魅力」。音楽評論家の野平多美さんがレクチャー、夫君の野平一郎さんがピアノ、ヴィオラの第一人者川本嘉子さんも参加して、というなかなか豪華なものになった。

1974年にこの世を去ったダリウス・ミヨー。徴兵年齢に達していたフランスの男性の半分が戦死したと言われている、人類始まって以来の災厄となった第一次大戦後に、フランシス・プーランク、ジョルジュ・オーリックなどと印象派に代わる新しいフランス音楽を担う若手「6人組」としてパリの音楽シーンに登場していた。若いころから慕っていた郷里の詩人フランシス・ジャムの計らいで詩人・外交官ポール・クローデルに私淑。(クローデルは大正10(1921)年から約5年は駐日フランス大使。ロダンとの愛が有名なカミーユ・クローデルは4歳上のお姉さん。映画にもなりましたね。)第一次世界大戦下の1917年にはブラジルの文化大使となったクローデルに誘われて秘書としてブラジルに同行。フランスへの帰途の途中にニューヨークのハーレムでジャズも聴いている。このときの経験が、対位法、西欧中世のポリトーナル(多調)の基盤に加え、ミヨーの音楽にブラジルの音楽(ブラジルのショパンと言われるナザレーの演奏に触発され、ショーロやタンゴの旋律を引用して作った「ブラジルの憂愁」やアメリカのジャズ(アルトサックスのソロを室内楽の編成でジャズオーケストラの作品とし、パリの1923年の初演時には大酷評(!)された「世界の創造」)と彩りとリズムを与えた。1923年のパリはまだジャズが輸入された直後だったから先進的過ぎたんだろうね。

ミヨーは南仏の自然を愛し、気持ちの優しい、誠実で誰にでも穏やかに接する人間だったといわれている。2008年に105歳で大往生を遂げた奥さんのマドレーヌはいとこだったため(結婚前も結婚後もマドレーヌ・ミヨー!)、ミヨーが子供のときからのいろんなエピソードを残してくれている(注)。ミヨーの生家はアーモンドの輸入業者で、家は出入りする運送業者や商人たち、車や機械のいろんな「豊かな音」に満ちていたこと。ユダヤ人だったミヨーがナチス・ドイツの危険から逃れるためにリスボン経由アメリカに逃れたときも、入国ヴィザにおける制限事項として財産を持って入国してはいけないという条件を「文字通り」に理解し一文無しの状態でニューヨークに渡ったため、翌日から音楽を演奏するなどして移動資金を手に入れなければならなかったこと。西海岸までレンタカーしてトンデモ珍道中だったこと、など。それでも誰にでも好かれる性格も幸いしてか、西海岸のミルズ・カレッジでの教師の職を友人が見つけてくれて、第二次大戦終結の1946年に帰国しパリ音楽院の作曲家教授に就任してからもミルズ・カレッジでの教授を継続しデイブ・ブルーベックやバート・バカラックら多くのアメリカ人作曲家・ミュージシャンを育てた。

2014年に没後40周年を記念して、ダリウス・ミヨー没後40年記念ボックス(10CD)が発売となって、お得にいろんな作品に接することができる。野平・川本デュオの熱演は素晴らしいものだったので多くの人とシェアできないのは残念だけれど、当日の演目「第2ソナタ」と「4つの顔」(このアルメニア人のホブハニシアンの演奏もいいね。最初のLa CalifornienneとラストのLa Parisienneが特に素晴らしい)、それとこれもぼくの好きな「ブラジルの憂愁」(サウダージ!です)を、YouTube音源から。「ブラジルの憂愁」のブラトキは子供の時からの先天的な病気で白内障となりそのハンディを公にしないで若い頃から世界各地で演奏していたが、44歳で手術が成功して視力を回復した、という人。

「ブラジルの郷愁」Saudade do Brasil Op.67(1920) Marcelo Bratke(p)

「第2ソナタ」ヴィオラとピアノのためのOp.244 (1944)Tomas Tichauer(vla), Barbara Civita(p)

「4つの顔」Op.238 (1943) Gor Hovhannisyan(vla), Gary Kirkpatrick(p)

(注)Conversations With Madeleine Milhaud: Roger Nichols (1996)。この本の6年後の102歳(!)のときのインタビュー映像もあるので、興味がある方はどうぞ。これ。

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